働き方改革

  電通社員の自殺という悲劇はここにきて経営責任にまで発展し、少なからず国内の企業に影響を与えている事だろう。そもそも36協定の上限が月間80時間というのが異常だが、これが許される労使関係(組合の有無は知らないが・・・)も全く機能不全に陥っていると言わざるを得ない。或いは会社は報酬のみで社員に報いるという割り切った考えを双方が持っているということか。しかしこの問題の本質は長時間労働では無く、上司のパワーハラスメントであることは明白である。誰しも人格を否定され続ければ病気になる。そのようなマネジメントを許している会社(経営陣)に大いに問題がある。

 

  パワーハラスメントの問題については議論の余地はなくGuiltyということであろうが、この電通問題が現在政府が進めている働き方改革に拍車をかけていることは間違いない。ところでこの働き方改革、単純に長時間労働と言った問題では無く様々な問題が絡み合った複合問題であり、一筋縄ではいかないことは会社人であれば容易に想像ができる。政府はパンドラの箱を開けたと言っても過言ではない。どうか途中で投げ出さず最後まで取り組んでもらいたい。

 

  まず長時間労働問題の本質は、長時間労働を強いられること、或いは経済的理由で長時間労働せざるを得ないこと、前者は明確な命令がなくともそうせざるを得ない状況に追い込まれている例がほとんどで、後者は会社に貢献した社員が報われるのではなく単に長く働いた社員に多く支払われるという不条理を引き起こしている。ただし、両者ともに自ら望まない長時間労働で有り、継続して良い(効率的な)仕事ができるはずがない。ストレートに数字に現れるわけではないが会社の業績を押し下げている大きな要因である。また、今更言うまでも無いが、長時間労働は女性の社会進出を妨げ、少子化に拍車をかけている。

 

  長時間労働の原因は、仕事量と人員がバランスを欠いていること。企業は国際競争が激しくなる中で相当な効率化を求められてきたが、その中心になったのが人件費である。一方、人員減に対して仕事の効率を上げていかなければならないものの、システムやツールの導入にとどまり、抜本的な仕事の見直しがそれほど進んでいないこと。例えば大企業では、大勢の役員が連判した決裁書が回付されていたが、今は同じ形態でシステム化されただけ。欧米流の責任者一人の判断で物事を決める形態には程遠い。

 

  正規非正規問題は雇い止め制度とも密接に絡んでいる。企業はリスクを取れないゆえ非正規の採用を行わざるを得ないが、ここに金銭解決による雇い止め制度が導入されると、非正規の割合も欧米並みに減っていくに違いない。決して同一労働同一賃金の議論で終始させてもらいたくない。数年前に議論になったホワイトカラーエグゼンプション制度も骨抜きになってしまった経験がある。

 

  蛇足になるが、日本人の労働生産性は欧米と比べてかなり低くOECD加盟35ヶ国中の18位で、国民一人当たりのGDPは394万円で、同591万円の米国のほぼ2/3の水準になる。(※公益財団法人 日本生産性本部)どれだけ働けば豊かになるのか、日本はまだまだ発展途上の国である。

 

(追記)"36協定の上限が80時間と言うのが異常"と記載したものの、上場企業の7割が上限80時間という情報を得た。真偽は未確認であるが働き方改革実現会議検討委員の方の発言として確認したので正しい可能性は有そう。